第11章 秘密の
「・・・すみません、混んできましたし帰ります」
「ひなたさん・・・?」
店内にはお昼を済ませにきたお客さんが増えてきていて。多めにお金をカウンターに置いて、逃げるようにポアロの出入口へ急いだ。
それに気づいた透さんがカウンターから出てこようとして。
「安室さん!ナポリタン1つお願いします!」
「あ、はい・・・」
私にはタイミング良く注文が入って。これで大丈夫と少しだけ安心したところで、ポアロを飛び出して走った。
透さんに呼ばれたような気がする。
でも後ろを振り返ってはいけない気がして。
「・・・はっ、はぁ・・・」
少し進んだところで、今日は走ってばかりだな、と思いながら苦しくなって足を止めた。
まだ一緒にいたかった。
まだ話したかった。
お互いの気持ちは伝えあったけれど、やっぱりこれ以上の関係にはなれないんだな、と痛感して。
家まではとぼとぼと歩いて帰った。
玄関を開けて靴を脱ぎ捨て、床に座り込んだ。
もう考えることも動くことも面倒で。
いっそ本当に消えてしまえば、と思うほどには気持ちが衰弱していた。
その時、カバンに入れていたスマホからバイブ音が響いた。音のパターンからして恐らくメール。
カバンの中からスマホを取り出し、メール画面を開く。
そこにあるのは安室透の文字で。
「・・・っ」
メールを開くのが少し怖くて。それでも開かないといけないことは分かっている。
手の震えは大きくなるが、意を決してメールを開いた。
『家には着きましたか?行動は事前報告をお願いします』
一見、心配しているような内容だけれど。私にはどちらかと言うと怒っているように見えて。
でもその方が私には都合が良いのかもしれない。このまま少し距離ができれば、多少なり動きやすくなるのかも・・・なんて考えた。
『すみません、家には今着きました。以後、気をつけます』
必要最低限の言葉。送信ボタンを押して、ふと気づく頬を伝う涙の存在。
「あ・・・あれ・・・っ」
本当に自然と、意図せず涙が零れた。
悲しい訳ではない。寧ろ情けなさという感情の方が大きいように思う。
透さんに言われたのに治せない悲観的な考え。
透さんを疑っている自分。
透さんを裏切るような行為。
涙を流す理由は腐るほどあった。