第86章 刻んで※
「ごめ・・・っ、ごめんなさい・・・ッ」
謝っても仕方が無いのに。
零も、風見さんも裏切るような行為をしておいて。
何度、何の決意をしたのか。
「本当に、ごめんなさい・・・っ」
でも、謝ることしかできなくて。
涙を流す資格も無いくせに、勝手に溢れてきてしまって。
「・・・・・・」
何も言わない彼に不安になって。
更に涙が溢れてしまった。
子どものようにボロボロと涙を零していると、抱き締められていた体が静かに離れて。
「僕はひなたに謝ってほしい訳じゃない」
それは、分かっているけれど。
でもそれ以上何をして良いか分からなくて。
彼の指が優しく涙を拭ってくれるが、そんな資格は無いんだと自分を罵った。
「ひなたが分かってくれるまで何度でも言う」
そう言って短く、一瞬触れるキスを落とされて。
「僕から、離れるな」
物理的な意味だけでは無い。
それは分かっていたはずなのに。
結局いつもつもりで。
毎回学習したつもりなのに、できていなくて。
そんな私を彼は何故か見捨てなくて。
「言っている意味が分かるな?」
両手で私の顔を包んでは自分の方へと向けさせ、確認をしてくる彼に情けない表情で小さく頷いた。
「それでいい」
そう言うと、今度は深いキスをされて。
泣きながらのせいか、いつも以上に苦しく、少しだけ切なく感じた。
毎回、次がある訳じゃないのに。
それは記憶を失って分かっていたはずなのに。
・・・やはり私は。
「っ!」
また余計な事を考えていると、突然背中に何か違和感を感じて。
さっきまで感じなかった、冷たさを感じる。
ワンピースのチャックを下げられているのだと分かった瞬間、変に戸惑いが生まれた。
「れ・・・っ」
「ここではバーボンか透、だ」
唇が離れた瞬間、思わず違う名前を呼びかけてしまって。
それを阻止する為に彼は手で私の口を素早く塞ぐと、訂正すると共に器用に片手でワンピースを脱がし始めた。