第86章 刻んで※
「・・・ひなた」
あぁ、少しだけ余裕の無い声だ。
その声が、私の中の何かを疼かせて。
今度は首筋を舐め上げた先にある、彼の耳へと舌を移動させた。
「ッ・・・」
私の肩を掴んでいた、彼の手に力が入って。
互いに、純粋に今を楽しむ余裕なんてものはないけれど、感じてしまうことに変わりはない。
そういう生き物なんだと実感しながら、彼の耳を口に含みながら舌を動かした。
「もういい、ひなた・・・っ」
小声で言うということは、本音・・・ということか。
でも、何故だろうか。
「ひなた・・・!」
辞めたくないのは。
「・・・ッ・・・!」
乱れている彼のシャツを軽く開き、覗かせた彼の蕾を確認すると、今度はそこへ軽く舌を這わせた。
痛いくらいに掴まれている肩から伝わる力で、彼がどう感じているかを物語っている。
少し固くなっているそこを何度も舐め上げる中、そっと確認し損ねた場所へと手を置いて。
「・・・・・・」
ああ、やっぱり。
「・・・やめない」
彼だって動揺する時はするんだ。
「・・・っ」
さっきの心拍数が嘘では無かったと確信すると、耳元でそっと囁いて。
私だって、やる時はやれるのだと。
心配や迷惑ばかり掛けるのは嫌だと。
そう言うように、少しだけ低い声で。
「・・・・・・!」
彼のベルトへと手をかけると、カチャリと音を立てながら外していった。
監視がある手前、無下に断ることもできないはずだ。
今の私達はそういう関係なのだから。
それでもまだ僅かに震える指先でベルトを取り払うと、チャックをゆっくりと下ろした。
下着越しでも分かるそこの膨らみを目視すれば、途端に緊張感が込み上げて。
「・・・・・・っ」
見るのは初めてではないけれど。
こうして自ら言って触れるのは初めてだから。
下着をズラしたそこから覗かせる彼のモノはいつも以上に大きく感じ、こんなものを毎回飲み込んでいたのかと素直に驚いた。