第86章 刻んで※
舌は軽く絡むだけ。
意識が全てそちらに逸れることは無く、ワンピースの裾から這い上がってくる彼の手にも気づける程で。
唇が離れると、手袋をはめた手が登ってくるのを止めるべく、咄嗟に彼の腕に手を置き力を込めた。
「待・・・っ」
言いかけた所で、その言葉は自主的に飲み込んだ。
昨日を思い出してしまったせいか、言ってはいけない気がしたから。
でも、彼の行動の意図は知りたい。
そう思っていた矢先。
「・・・一度しか言わない」
耳元で、彼がそう小さな声で囁いた。
バーボンでは無い、降谷零の声だと感じながら。
「この部屋にはカメラが数台ある。僕達の関係が本当かどうか探っているようだ」
・・・いつの間に、そんなものを見つけていたのか。
部屋に入ってまだ数分の出来事なのに。
ただ、疑われるのは当たり前だ。
一時は死んだと思わせていたのに、のこのこと現れた上にノックだと疑われているバーボンの愛人として居るのだから。
「・・・っ、ひぁ・・・!」
話を聞いている間も、彼の手は止まることはなくて。
考える必要は無いけれど、考える余裕を徐々に無くしていった。
「それと」
「い・・・ッ」
言葉を続けようとした直後、耳に軽い痛みが走って。
彼の歯が立てられたのだということは分かったが、それが何故なのかは理解できなくて。
「僕を怒らせたお仕置は、今させてもらう」
やっぱり怒っていたんだ。
ジンが銃を構えているのに、立ち塞がったからだろうか。
それとも、大人しく彼らの言うことを聞いてしまったからだろうか。
思い当たる節が多過ぎて、どれかと聞くこともできない。
「っん、あ・・・!」
手袋越しに、彼の指が胸の蕾を摘んで。
その妙な感覚と、見られているという意識のせいで、軽い刺激にも関わらず甘い声を漏らしてしまった。
バーボンの女として役立たねばと思っていたのに。
いざその時が来てしまうと、どうすれば良いのか分からない。
結局、足でまといにしかなっていない気がしてしまった。