第86章 刻んで※
「・・・へえ、そう」
彼が警察官であることは事実だが、わざわざ私にそう聞いてくるということは、まだ確信は無いということで。
「いいわ、行って」
それだけ聞くと、ベルモットはポルシェのドアを閉めてヘルメットを被って。
そして、隣に止めていたバイクへと跨ると、颯爽と走り去ってしまった。
確かにここへ大人四人が乗るのは窮屈だが・・・何故かベルモットが居ないことに、少し不安を感じた。
彼女だけは少し、他の組織の人間達と違う匂いがするせいだろうか。
「・・・・・・」
程なくして、私と二人の怪しい男を乗せたポルシェも発車された。
駐車場を出て約五分。
会話は何も無いまま、ただ夜の街を走り抜けた。
たまに後ろを振り返り、彼の車があるのを確認しては安心のため息を静かに吐いて。
・・・もしかして、聞きたい事というのはベルモットのさっきの質問の事・・・?
たったあれだけの事の為に、呼びつけられたの・・・?
「おい、女」
「!」
完全に油断しきっていた所に、突然ジンが声を掛けてきて。
「バーボンとは何処で会った」
・・・少し、マズいと思った。
バーボンがジンに私達の出会いのことを話していたとすると・・・矛盾したことを話してしまわないか、と。
「・・・彼が潜入している、喫茶店です」
バーボンの愛人としている以上、言い方は悪いが、建前上程よく悪に染まっていなければならない。
こういう組織と・・・関係を持ってしまった以上。
「分からねえなァ」
「・・・何がですか」
分からないのはこちらの方だ。
わざわざ彼と別にされた上に、こんな質問・・・。
「・・・!」
「兄貴!」
ジンは前を向いたまま。
音とその黒光りする鉄の塊を見れば、何を向けられたのかは分かる。
「バーボンの所へ返してくれるんじゃなかったんですか」
再び向けられた銃を見つめたまま、再度こちらから尋ねると、ジンは小さく笑いを漏らしながらそれに答えた。