第85章 覚えて※

「とお･･･る、さ･･･っ」

まだ、快楽が足りない。
溺れるにはまだ、それが足りない。

求めるように吐息と共に名前を吐き出せば、彼の体がピクリと震えて。

その直後、何故か腟内に入っていた指は突然引き抜かれ、この上無く大きな喪失感を覚えた。

何故そうされたのか分からない。

その戸惑いからか、途端に気持ちが落ち着かなくなって。
思わず含んでいる彼の耳に、軽く歯を立ててしまった。

「･･････っや･･･！」

でも、そんなどうしようも無いもどかしさを感じていたのも、僅かな時間で。

蜜口に何かが当てられた。

それに気付く頃には、その何かが腟内に入り掛けていて。

「･･･い･･･ぁ、あぁぁ･･･ッ！！」

指とは確実に質量の異なる、彼のモノ。

まだ少しだけ入っただけなのに、声を上げながら腰を浮かして。

最中、僅かに離れそうになった彼の体を反射的に引き寄せるように、腕の力を更に強めた。

力が入ったのは、腕だけでは無いけれど。

「っ、･･･呼吸を、止めるな･･･ひなた･･･」

意識的に止めている訳では無い。

その言葉通りには簡単にできない、と首を横に振れば、彼の冷たい手が私の額に触れて。

その瞬間、僅かだが要らない力を抜くことができた。

さっきの言葉と合わせて･･･降谷零を感じたからかもしれない。

「あ、ゃ･･･待っ･･･！！」
「待たない」

このまま挿入が続けば、簡単に達してしまう。
それを何故か、はしたなく感じてしまって。

まだ嫌だと再び小さく、ふるふると首を振った。

無駄だと、今は口にしてはいけない言葉だと分かっていたのに。
思わず出たそれには、冷静に言葉が返ってきて。

･･･話している声色や話し方は降谷零なのに、安室透として接しているせいで、頭の中は混乱していた。

「ぃ、あ･･･んんぅ･･･っ」

今度は手の甲側から、彼の曲げた人差し指が口に入ってきて。

たった一本の指で口内が埋め尽くされてしまうことに、彼の男性である部分を強く感じた。