第11章 秘密の
「ひなたさん!」
「・・・っ、透さん・・・」
少しポアロを過ぎた所で、彼が飛び出すように出てきて。
「せっかく来たのに食べて行かれないんですか?」
「あ・・・いえ、お忙しそうですし・・・。それにここに来た訳では・・・」
そういった瞬間、お腹の虫達が騒ぎ立てて。急いでお腹を抑えたがもうすでに遅かった。恥ずかしさできっと顔は真っ赤で。
「大丈夫ですよ、この後何かご予定でも?」
「いえ、別に・・・」
「では、何かご馳走します」
「え・・・!?あのっ・・・!」
そう言うなり私の手を強引に引っ張って、店内へ引きずり込んだ。
見慣れた店内だが、お客として入るのは久しぶりで何だか不思議な気持ちになった。
「あれ?ひなたさん!」
「あ、梓さん・・・すみません、忙しい時に・・・」
「大丈夫ですよ!どうぞ、座ってください」
透さんの顔をチラッと見ると、笑顔を向けられていて。促されるようにカウンター席についた。
「梓さんのカラスミパスタも美味しいですけど、今日は僕の特製シチューなんていかがですか」
カウンター越しにいる透さんはなんだか楽しそうで。その姿を見ているだけで笑顔につられる。
「じゃあ・・・それで」
「はい、かしこまりました」
さっきまで沖矢さんと会っていたことを透さんは知らない。そのことに少なからず罪悪感を感じながら、料理を準備する彼を見つめた。
「今日はお出かけですか?」
「は、はい・・・まあ・・・」
今の私の周りには探偵が多過ぎる。気が抜けない時間が多くなって、段々と嘘をつくのも下手になってきている気がした。
「・・・連絡、入ってませんでしたけど」
「あ・・・っ」
すっかり忘れていた。行動は逐一透さんへ連絡する、という約束。
さっきまでの優しい空気から一転、ピリついた雰囲気になったのが嫌でも分かった。
「す、すみません・・・っ、急いでいたので・・・」
「そんなに急いでどちらまで?」
安室さんは笑顔を崩さなかった。それが逆に怖くて。
「ゆ、友人の家に・・・」
「へぇ、僕はてっきり昨日の男に会いに行ったのかと思いました」
心臓が飛び出そうになった。
どうしてそんなこと言うのだろう。