第11章 秘密の
「・・・それと、昨日のことどうするんですか」
「どう、とは?」
わざとシラを切っているのだろうか。
「透さんと会ってしまったことです。顔合わせるの・・・まずいんですよね?」
「ええ、まあ」
釈然としない答えにこちらもモヤついて。
「このまま知らぬ存ぜぬで通すんですか?」
「それしか今はないでしょうね」
それはそうなのだが。沖矢さんならもっと良策を考えていると勝手に思っていて。
俯きながら小さくため息が漏れた。
「大丈夫です、僕には君のような心強い協力者が何人もいますから」
自信に満ち溢れた言い方。この人、本当にただの大学院生で探偵なのだろうか。
「・・・分かりました、お話が終わったようなら私はこれで」
なるべく早くここから立ち去りたくて、言うなりカバンを持って立ち上がった。
「彼のところへ行くんですか」
玄関に向かいかけたその足を止めた。自然と止まったとも言えた。
「彼と貴女がそんな関係になっているとは思いませんでしたけど」
「・・・あくまで上司と部下です。そして私の恩人です」
そう言っている間も思い出しているのは昨夜のこと。思い出すと沖矢さんにバレてしまいそうで必死に考えないようにしたが、それは難しいことだった。
「昨日一晩で名前で呼ぶ仲になっているので、てっきりそうかと」
名前で呼んでいるのは無意識だった。彼の前でどう呼ぶか悩んでいた朝の自分は一体。
またやらかしてしまった気持ちでいっぱいになりながら、玄関へ足を向けた。
「失礼します」
そう言って足早に部屋を後にした。今は沖矢さんのいる家を視野に入れたくなくて、外へ出ると逃げるように走った。暫く走り、疲れから足を止める。
ふと顔を上げるとそこはポアロで。
無意識にそこへ辿り着いたことに自分への呆れ笑いが込み上げた。
「・・・透、さん?」
店内を除くと接客をする彼の姿。てっきりいないと思っていて。何なら暫くは会えないと思っていた。
探偵はお休みするのにポアロでは働くんだ、なんて考えながら透さんを見つめて。店内はお昼時ということもあって、少し混雑し始めていた。
昨日のことを勝手に思い出してはまた恥ずかしくなって。もういっそ夢であってほしいとさえ思った。
美味しそうなポアロの・・・透さんの料理を食べるお客さん達を少し羨ましく思いながらポアロを通り過ぎた。