第85章 覚えて※
そういえば、あのグループに捕まって零が助けに来てくれた後、二人とも薬の影響を受けたけど・・・効果の時間について等、零は妙に詳しかったように思う。
その頃から零は、あの薬について知っていたんだ。
「あの男は取り押さえたが、バックにはまだ何人もいる。それを根絶やしにしない限りは、あの男がしていたような事は無くならない」
そう話す彼の目は、鋭く、怖く、決意に溢れたもので。
獲物に狙いを定めた獅子の様だった。
「ひなた」
「・・・何?」
少しの間の後、彼は徐ろに立ち上がり私の傍へと立って。
見上げるように視線を向けると、いつものように彼の手が頬を包んだ。
「いつも危険な目に合わせて、本当にすまない」
さっきまでの鋭い眼光が嘘の様な、悲しい目。
「零が謝る事じゃないよ。元はと言えば、私が悪いこともあるし」
「僕がいなければ、そうならなかった事もあるだろう」
・・・それは、私が弱かったから。
「でも、零が居ないのは嫌だよ」
「・・・僕もだ」
いつしか思った、互いの存在が強みにも弱みにもなる事を痛感する。
そして今の私は、彼にとってお荷物のような存在だという事も。
風見さんの言うような存在になる為には、もう少し・・・上手く・・・。
「少し、抱き締めても良いか」
椅子に座る私の傍に膝をつき、手を取って突然そう言って。
「・・・少しで良いの?」
「じゃあ、ひなたが離してと言うまで」
そんな事を言えば、いつまでも言う訳がない。
互いの存在を確認し合うようにキツく、固く、力いっぱいに抱き締めて。
彼の少し早い鼓動を感じれば、それに同調するように自分の鼓動も早くなった。
「さて」
「・・・っわ、ぁ・・・!?」
突然、担がれるように抱き上げられ、その浮遊感に驚いては情けない声を上げてしまって。
「零・・・!?」
「食後の運動をしないとな」
隣の和室へと移動しながら彼はそう言って、優しくベッドへと下ろしては上に覆いかぶさった。