第85章 覚えて※
零が帰るのは恐らく日付が変わる頃だろう。
でも明日は互いに用事は無いはずだ。
彼が食べて帰る可能性もあったが、たまには晩御飯を用意してみようと、拙いながらも準備を進めた。
ただ、それを終えてもまだ時間はそれ程経っていなくて。
お風呂も、掃除も、済ませられることは全て終えた。
何もすることが無いというのは、こんなにも虚無感を覚えるものだっただろうか。
零を待つ時間は、いつもこんなに長かったっけ。
どこか寂しささえも感じながら机に突っ伏すと、ゆっくりと瞼を閉じた。
ーーー
「・・・・・・!」
知らない間に眠ってしまっていた。
妙な体勢で寝てしまっていたせいか、体の節々が痛む事に顔を歪ませながら体を起こして。
時計に目をやってみるが、もう日付はとっくに変わっていた。
「・・・零?」
まだ彼が帰ってきている気配は無い。
・・・けど、妙な気配はする。
何かがすぐそこまで来ているような、不思議な感覚。
「・・・・・・」
恐る恐る、無意識に息を殺しながら音を立てないように玄関へと向かって。
暫くその目の前で立ち尽くしては様子を伺ってみるが、特に何かが起こるわけでも誰かが尋ねて来るわけでも、零が帰ってくるわけでもなかった。
気の所為だったかと一つ溜息を漏らし、部屋に戻ろうとした、その瞬間だった。
「!」
何の気配も無いまま、そのドアは突然開かれて。
「・・・ひなた?起きてたのか」
いつもとは少しだけ雰囲気の違う、彼が帰ってきた。
「お、おかえり・・・。さっきまで寝てたけど・・・今、起きた・・・」
言葉、態度はいつもの彼なのに。
服装が違うからだろうか。
いつもは見ないスーツにベスト。
これが、所謂バーボンの時の彼なのか。
「もしかして、まだ食べてないのか?」
テーブルの上に用意してあったおかず達に目を向けると、彼はループタイを外しながらそう尋ねてきて。