第84章 教えて※
「っん、ぃ・・・あぁぁッ・・・!!」
久しぶりに感じる、この感覚。
体がどこかに沈んでいく中、それでも浮いているような不思議な感覚。
どちらかと言えば彼相手になら幸福感を感じるはずのそれに、恐怖を覚えるなんて思いもしなかった。
でもその恐怖も、すぐに消え去った。
「大丈夫か」
彼の問いに力無く頷けば、少し安心したような笑顔を見せて。
いつも彼は人の心配ばかり。
・・・私が情けないせいもあるのだけど。
「・・・零・・・」
「どうした?」
記憶を無くしてから初めて聞いた名前は降谷零だったのに。
そう思いながら、意味も無く彼の名前を呼んでみた。
でも思い出していくのは安室透からなんだと気付けば、何故だか不安の様なものを感じた。
どちらも彼に変わりはないけど。
彼の素であろう降谷零を思い出せないのが、辛いんだろうか。
「・・・キス、して」
腕を伸ばし、抱き締めてほしいと態度で示せば、彼は黙ってそれに応えてくれた。
そして、口にした要望にも。
でも、唇を何度も唇だけで挟み込むようなこのキスに感じているのは、もどかしさだろうか。
決してこのキスが嫌な訳では無いけれど、もっと溺れるようなキスがしたい。
零しか考えていられないような、キスが良い。
「ん、ぅ・・・ン・・・ッ!」
そう思って僅かに覗かせた舌は、絡め取るように彼の口内へと引きずり込まれて。
何もかも飲み込まれてしまいそうなそれに、体はこれを求めていたんだと、喜びの声を上げているようだった。
「れ・・・っ、んん・・・ぅ、ン・・・ッ!」
それでも脳は酸素を必死に求めていて。
空気を取り込もうと僅かに唇をズラすが、すぐに蓋をされてしまって。
苦しいのに、こんなにも幸福感を感じるのは何故だろう。
いっそこのまま、溺れてしまえれば良いのに。
軽い酸欠状態の中、脳裏でそんなことを考えていると、完全に意識の逸れていた秘部に何かが当たった。
それに気付いた時にはもう、何もかもどうしようもなくて。