第84章 教えて※
「っん・・・ぅ、んん・・・ッ」
今までの優しいキスとは違う。
貪るような激しいキス。
苦しいのに、甘くて、溶けそうで。
絡み合う舌が口内を埋めて、息もできなくなった。
「・・・キスの仕方まで忘れたか」
「ち、が・・・っ」
忘れてなんかいない、と言いたかったけれど。
彼のキスは、彼のキスによって思い出された。
時にこういう激しいものをする人だと。
「思い出してくると、欲が出る」
それは・・・私だって同じ思いだ。
もっと、もっと、と。
それは思い出したいという欲だけでなく、彼を求める欲や、その他の欲も・・・それなりに。
「・・・すまない、我慢の限界かもしれない」
そう言う彼は、限り無く余裕が無いといった様子で。
それにつられるように、自身の余裕までもが無くなっていった。
「いつまでも、最後があんな男で終わっている事が嫌なんだ・・・」
あんな男・・・あの、情報屋のことか。
本人は売人と言っていたけど。
・・・結局、詳しくは何者だったんだろう。
「あの男は決して許さない」
そう小さく呟いた声は、恐ろしく低く、強いもので。
一瞬彼のものだったのか、疑いたくなる様なものだった。
「零・・・」
ある意味、私がここにいるのは奇跡なのかもしれない。
そう思いながら彼の頬へと手を伸ばした。
それが触れた瞬間、強ばっていた彼の表情は少しだけ和らいだようにも見えて。
「私は今、零が傍に居てくれるだけで幸せだよ」
過去にあったことは、無かったことにできないけど。
「・・・煽っているのか」
「違わない、かも」
今できることは、今しておかなくちゃいけないことは、身を持って思い知ったから。
それは言葉にすることも同じで。
「零が、好き」
どちらかが突然居なくなることなんて、無くはないのだから。
せめて今の気持ちだけは知っていてほしい。