第84章 教えて※
「ついでと言ってはなんだが、明日は事務所の仕事を頼んでも良いか?」
「うん、大丈夫」
明日、彼は別の仕事が入っていると聞いた。
何となくそれは、公安や探偵としてではないような気がして。
恐らく、バーボンという三人目の彼になるんだろう。
何故かその彼にだけは会いたくないと思ってしまうのは・・・どうしてだろう。
「一応、近くで風見を待機させているから、何かあればすぐ・・・」
「心配し過ぎだよ。それに、風見さんなら事務所に居ても大丈夫じゃ・・・」
ここに来たことだってあったはずだ。
別にわざわざ離れた所から見守らずとも、中で傍に居れば良いと思って。
「それはできない」
キッパリと断った彼の顔は真剣そのものを表していた。
「どうして?」
短く尋ねると、彼は私をソファーへと誘導させ、同時に二人でそこへ腰掛けた。
「他の男と二人きりなんて、例え風見でも嫌なんだ」
・・・さっきまでの表情はなんだったのか。
そう言いたくなる程に、彼の頬は僅かに赤に染まり、余裕の無さそうなものになっていた。
「・・・嫉妬?」
私にとっては何気無い質問だったのだけど。
彼にとってはそうでは無かったようで。
「悪いか」
・・・このやり取りに近いものをした事があるな、と薄ら思い出しては、それに心底安心した。
消えた記憶は、もっとフラッシュバックのように思い出されると思っていたが・・・案外ぼんやりと思い出してくるものなんだな、と思っては小さく笑いが漏れてしまった。
「・・・ひなた」
「ごめん」
本気では無いけれど怒っているような零の声と表情に、抑えていた笑いが引き出されて。
「もう全て思い出しているんじゃないだろうな」
「ここに居た時のことくらいは」
だから、こうして笑える。
それは彼も分かっているようだった。
「じゃあ・・・こうしていた事も、か」
そう言って零は、私の肩を軽く押し倒し、ソファーへと私の体を押し付けた。
「れ・・・」
言う暇なんて与えられなかった。
その唇が彼の唇で塞がれた瞬間、まさに自分が思っていたように記憶は蘇ってきた。