第84章 教えて※
「・・・・・・」
・・・まただ。
また、あの懐かしい感覚。
でも今度は、さっきよりもハッキリとしたもので。
「これ・・・」
私はこれを、飲んだ事がある。
「・・・ひなた?」
後ろの窓側の席を振り返ると、暫くそこを見つめて。
「私・・・あそこで・・・」
泣きながら。
彼の入れたミルクティーを。
「透さんに・・・」
兄のことを話しながら。
そこにはコナンくんも居て。
彼と会ったのは偶然だったのかもしれない。
けど、今思えば出会うことは必然でもあったのかもしれない。
「思い出したのか・・・!?」
カウンターから身を乗り出すように問い掛けられれば、彼の必死さの様なものが伝わってきて。
「少しだけ」
・・・そういえば、こういう焦りを感じた彼を見たことはあまりなかったな、と思えば自然と緩やかに口角が上がった。
思い出せる記憶の中での彼は、だけど。
「・・・ちょっとで良いので、帰りに事務所に寄っても・・・いいですか?」
全部を思い出せた訳じゃない。
断片的だけど、彼と過ごした時間を思い出し始めた。
ここで彼と出会い、私に仕事や居場所をくれて。
帰る場所が、彼の家以外にもあった事も思い出した。
その仕事場でもある事務所が、今どうなっているのかまでは思い出せなかったけれど。
まだ存在しているのであれば、一目見たいと思った。
「・・・勿論だ」
目を丸く驚いていた様子だった彼だが、その落ち着きは直ぐに取り戻して。
優しい笑顔と共に、そう答えた。
その言葉に、まだ事務所という帰る場所がある事を知って、安心した。
まだ私は彼の助手として働いているのか、そういう所までは思い出せないが。
「初めて事務所で仕事をしていた時・・・持ってきてくれましたよね、ナポリタン」
そんな些細な事は覚えているし、思い出せたのに。
もっと大事な事は、記憶の引き出しの奥に仕舞われたまま。