第84章 教えて※
「・・・?」
・・・そういえば、このナポリタン。
妙に懐かしく感じる。
久しく食べていないせいもあるのだろうが、そういう懐かしさではなくて。
この味を、知っているような感覚。
「一つ、聞いても良い?」
「どうした?」
目の前のそれから目は逸らさないまま、食事を進めていた彼に問い掛けて。
「・・・これ、私に作ってくれたことある?」
そう質問してみたものの、答えはどこか分かっていた。
「覚えているのか?」
その質問は再び質問で返された。
でもそれは限りなく答えに近いもので。
「何となく・・・食べた事があるような気がするだけ、だけど」
いつ、どこでというのは・・・思い出せない。
「・・・これは特別な味なんだ」
「特別?」
彼に目線を向けては首を傾げると、そこには昔を思い出しているような彼の姿があった。
少し儚そうな笑顔に、何故か目が釘付けになって。
「ひなたともう一人以外に、この味は作ったことが無い。と言っても、ひなたに作ったのは今回で二度目な上、一度目は安室透だったけどな」
私と、もう一人。
その言葉に、心に針が刺さったような痛みを感じて。
・・・そして彼は、降谷零と安室透にやたらと区別をつけている気がする。
確かに雰囲気や言葉遣い、立場は違うけれど・・・彼にとってはそれだけでは無いのだろう。
詳しい理由を、察することも問うこともできないけれど。
「私に初めて作ってくれた時のことは、教えてもらえないですか?」
過去の事はなるべく聞かない。
それは暗黙の了解だった。
「・・・ひなたと出会って、すぐの事だったよ」
でも彼は、その時の事を教えてくれた。
「僕はひなたが居たとある場所までこれを届けた。その時は色々と・・・君に隠し事がある時でね」
隠し事、か。
公安警察の人となれば、そういう物はいくらでもあるだろう。
それにその時は安室透として私に接していたようだし、もしかしたらその時の私は降谷零を・・・知らなかったのではないだろうか。