第83章 戻ると
「・・・・・・ッ」
窓から漏れる月明かりは、彼の背後を照らしているのに。
瞳だけはキラキラと輝いていて。
この目を・・・私は知っている気がして。
吸い込まれそうな、綺麗なこの目を。
「・・・ひなた」
呼ばれると同時に、彼がベッドに手をついて。
ギシッと音を立てるそれが、背徳感に似た感情を生んだ。
「な、に・・・?」
心拍数が上がっていく中、何故か体はそれに身構えて。
呼吸が止まってしまいそうな程、空気は上手く肺に取り込めなくなった。
「僕の前からいなくなった後、沖矢昴と何を話したか聞きたい」
・・・どうしてついて行ったのか、とは聞かないんだ。
その理由は明白だから、敢えて尋ねることをしないのか。
まあ、ついて行った理由も、話した内容も、ほぼ同じことなのだけど。
バレているだろうが、それは伏せた方が良いのだろう。
・・・そこまでは、頭で分かっていたのに。
「何も・・・ただ紅茶を・・・・・・」
・・・違う。
隠すことはそこだけじゃない。
また、やってしまった。
別の事を隠すことに必死で、つい。
沖矢さんと何を話したのかと尋ねられ、隠さなければいけないことを正直に答えてしまった。
「やはり」
沖矢さんの家に居たことは、彼は知らないはずなのに。
「あの家に居たんだな?」
「・・・ッ」
もう言い訳はできない。
・・・でもさっきどうして・・・また、だと思ったんだろう。
「別にひなたを責めている訳じゃない。何を言われたのか、聞いておきたいだけだ」
本心、とも取れたが、それ以外の感情も伝わってくる。
沖矢さんに対する敵意の様なものが、ピリピリと。
「・・・どうして分かったの?」
僅かに目を伏せては、一度こちらの質問を挟んで。
あの時、工藤邸では会っていないはずなのに。
その為に、紅茶のカップだって。
「紅茶のカップだ」
「!」
逸らしたばかりの視線を彼へと戻すと、ベッドに腰掛けながら零は言葉を続けた。