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【安室夢】恋愛ミルクティー【名探偵コナン】

第83章 戻ると




「・・・・・・」

通信を切るのを忘れたまま、彼に投げたバッジから聞こえた気がしたそれを何度も脳内で再生して。

俺なら・・・良かった・・・。

そう、聞こえたと思ったのだけれど。

「・・・ひなた?」
「っ・・・!?」

完全に気を抜いていたその瞬間、何の気配も無く突然背後から声を掛けられて。

声も出ない程驚いては体を大きく震わせると、声のした背後へと勢いよく体と視線を向けた。

「零・・・」
「何をしてた?」

そこには、つい先程まで話題に上がっていた人物が立っていて。

僅かに不思議そうに私を見ては、問い詰めるように肩へと手を掛けられた。

恐らく、先程の会話は聞かれてはいないはず。

直前まで、警戒心は一応あったから。

「つ、月を・・・見てました」

嘘といえばそうだが、本当だと言えば本当だ。

誤魔化すように言ってみるものの、彼も納得しているようなそうでないような表情を作っては、何も言わないまま私をベッドへと誘導して行った。

「体が冷えるだろ、ちゃんと布団に入っていろ。それと、敬語は禁止だと言ったはずだ」

ベッドに転び直した私に、布団を丁寧に掛けながらそう話して。

敬語が禁止だというのは、彼と離れる直前に話したことだ。

違和感があるからと伝えたが、できる限り今まで通りにしていた方が良いと互いに判断したからだった。

けれど、記憶が無いと彼にも打ち明けたせいか、気を抜けば彼を、親しいだけの少し特別な人として接してしまう。

最初はお互い敬語だったとも聞いた。

だから、だろうか。
少しこれが懐かしく感じるのは。

「・・・ごめん、気をつける」

一言謝ると、彼は優しい柔らかな笑顔を向けてきて。
私が独り占めするには勿体無いほどのそれに、直視できなくて。

思わず顔を逸らしてしまった。

「目、逸らすな。こっちを見ろ」

わざわざ、顔を向かせたりなんてしない。
自分の意思で、そうさせる。

私が彼の目を見るまで数十秒はかかった。

その間彼は何も言わず、ただ私が彼を見るのを静かに待っていた。




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