第11章 秘密の
「あの・・・話って・・・」
「その前に、僕に話すことがあるのでは?」
「・・・・・・え?」
紅茶セットを入れたトレーを運びながら、沖矢さんが問いかけてくる。どこか楽しそうな表情に少し寒気がしたようで。
「沖矢さんと、透さんが会ったことですか・・・?」
「その前ですね」
その前、と言われると。
「・・・組織の人間の物と思われる車を・・・追跡したことですか」
「収穫はありましたか?」
どうやら合っているようだ。何故沖矢さんがそのことを知っているのか気にはなったが、それを聞いてはいけないような気がして。
「・・・バーボンとウォッカ、というお酒の名前しか聞き取れませんでした」
「彼らの会話を聞いたんですか?」
収穫は無かった、と言えれば良かったのだが。どれが彼にとって有益で、透さんにとって不利な情報か自分では判断できない今は彼と情報を共有するしかなくて。
「・・・聞いてません。さっきも言いましたが、お酒の名前しか聞き取れませんでした」
会話の最中に紅茶を準備していた沖矢さんが、それをティーカップに入れて私に差し出した。綺麗に澄んだそれは私の心の中も見透かされているようで。
「その後、彼と鉢合わせたんですね」
「・・・はい」
実は全て知っているのでは、と思うと同時にあの時の恐怖が蘇りそうだった。
「彼は何と?」
「忘れました」
「ほぉ、その手もありますか」
実際本当に殆ど覚えていなかった。恐怖が大きかったせいでもあるが、その後のことの印象が強過ぎて。
「とりあえず、透さんは調査に協力させてくれると言いました」
「本当だと良いですね」
紅茶を飲みながらそう言われて。言い返す余地もなかった。実際透さんからは、あしらわれていた気が強かったから。
「今度は沖矢さんの番ですよ。どうして私を呼んだんですか」
ほんの少し生まれてしまった怒りを抑えて、強気に沖矢さんへ問いかけた。沖矢さんはカップをソーサーへ戻し、不敵な笑みを浮かべた。
「改めて僕の協力者として動いて頂けませんか」
それは共に行動するという意味だろうか。
どちらにせよ、今の私に拒否権や拒否する理由もなくて。
「具体的に何をすれば良いんですか」
本音は嫌だった。
沖矢さんの為に動けば、透さんに不利に動くような気がして。透さんと今の関係が崩れてしまうのが怖かった。