第83章 戻ると
『まるで閉じ込められた姫ですね』
恐らくここは3階程度。
暗がりで表情は目視できないものの、姿だけは月明かりで分かる。
そのハッキリとはしない彼の姿を、軽く顔を顰めながら見つめた。
「・・・丁度、お話したいと思ってました」
『おや、何でしょうか』
分かっているくせに。
そう言いたい気持ちをグッと堪えながらバッジを握る手に力を込めた。
「証人保護プログラムについてです」
思いの外、話す時は早く来て。
・・・何て、言うだろう。
私の言葉に関わらず、強行手段に出るだろうか。
彼ならしかねない。
でも、その場合は何がなんでも・・・。
『受けられないんですよね?』
「・・・え・・・?」
軽い口調でそう返されたことに、思わず拍子抜けしてしまって。
『違いましたか?』
・・・何だろう。
何なのだろう、この違和感のようなものは。
まるで最初から・・・こうなると分かっていたような。
『僕は最初から、貴女に証人保護プログラムを受けさせる気はありませんでしたよ』
嘘だ。
だったら何故あの時・・・。
『このまま彼を忘れたままでは、こちらも困るんですよ。・・・貴女は協力者の一人なんですから』
協力者・・・。
そういえば、彼とはそんな話をしたような気もする。
何故かそれは曖昧なのだけれど。
『彼も貴女も、双方が記憶を取り戻したいと思わなければ話が進みませんので、少々手荒にいかせてもらいましたが・・・上手くいったようですね』
手荒とは。
どの事を言っているのか分からないが、彼に関わった人物もまたそうだということか。
「コナンくんも、グルだったんですか」
『まあ、そういう事になりますかね。ただ坊やは証人保護プログラムを受けてほしかったようですが』
・・・でも、例えそうだとしても。
「私の記憶が元に戻る保証なんて・・・」
『ありますよ』
私の言葉を遮るように言葉を重ねられれば、出かかっていたそれは喉の奥で詰まって戻った。
『僕が保証します』
どうして、沖矢さんが。
そんな言い返しも、言葉にはならなくて。