第83章 戻ると
「だから、もう一度・・・私に貴方を教えてくれませんか・・・?」
身勝手かもしれない。
でも、それでもいい。
彼と居たい。
そう思うことの・・・何が悪いのか。
開き直りといえばそれまでだけど。
私に彼が必要だということが分かったから。
「思い出してほしくないという貴方も、全部」
余すこと無く。
全て。
「・・・後悔しないか」
「する訳ありません」
過去の私が敬語を外し、零と名前で呼んでいて。
触れ合う度に体が熱くなって。
こんなにも、自然に。
「・・・っ・・・」
キスができる人のことを。
全て知って後悔するはずが、ない。
ーーー
その日の夜。
彼は仕事の為、一度病院から離れた。
外では公安の人達が交代で立ってはいたが、どこかそのせいで落ち着かない気持ちもあって。
窓の外に見える月を見つめながら、ただひたすらに彼の帰りを待った。
いつ帰ってくるのかも分からないのに。
それでも眠気というものは来る気配すら見せなくて。
そろそろ日付けが変わろうとしていた時だった。
「!!」
忘れていた存在が、突然主張を始めて。
そういえばと思い出しながら、鳴り響くそれを枕の下から取り出した。
「・・・はい」
探偵団バッジ。
それを手に取ると、すぐに応答をした。
相手を考えることは、今更しない。
『そこから、下を見ていただけますか』
・・・沖矢昴。
予想通りの相手の声が聞こえたかと思うと、突然そんな事を言われて。
疑問には思ったものの、尋ねることはしなかった。
どうせきちんとした答えは返ってこないのだから。
繋がれている点滴を気にしつつ、ゆっくり体をベッドから下ろすと、スリッパへ足を通して。
先程まで月を眺めていた窓を開けて下を見下ろすと、そこには沖矢さんの姿があって。