第83章 戻ると
・・・違う。
私は何を迷ってるんだろう。
また理由をつけて、彼の傍に居ようとしてしまった。
さっき、沖矢さんに言われたばかりじゃないか。
「風見さん・・・私・・・」
言っておかなくては。
少なくとも、風見さんには。
逃げ道を無くすように。
「!」
今となっては自分の意志とは違う言葉を絞り出すように話しを始めた時、突然部屋の扉が再び誰かによって開けられた。
「・・・風見?」
「ふ、降谷さん・・・」
このタイミングで、彼が戻ってきてしまって。
彼はさっきの話を聞いていないものの・・・話が話だっただけに、風見さんとの間の空気は自然と気まずいものになってしまった。
「どうしてここに居る?何かあったか?」
「いえ、如月さんが目を覚ましたと伺ったので、様子を見に・・・」
さっきまでの話は内密に、とでも言いたげに風見さんから小さく視線を向けられれば、それは当たり前だ、と何も反応を見せない事で返事をした。
「例の件はどうした?」
「今指示を出しました。これから私も出向きます」
・・・空気がピリついている。
それは零が怒っているように見えるからだろうか。
「では・・・私はこれで、失礼します」
まるで風見さんを追い出すような鋭い目付き。
それに追いやられるように、風見さんは足早に部屋を後にして。
「・・・・・・」
結局、言いそびれてしまった。
・・・でも、いずれ彼も分かる事か。
「ひなた」
「?」
風見さんが出ていった扉を暫く見つめていた零は、そこから視線を外すと私の名前を呼んで。
これだけは酷く懐かしいのは何故なのかと、不思議な感覚に溺れながら小首を傾げて。
「風見と何を話していた?」
聞いてくるとは思っていた。
さっきまで彼と電話をしていた人物が、ここに居たのだから。
でもその内容を正直に話すことは、勿論できなくて。
「・・・特に何も話してないよ」
なるべく自然に。
言葉も、雰囲気も、笑顔も。
できているかは、別として。