第83章 戻ると
「降谷さんを・・・支えてほしいと思っています」
「・・・え?」
正直な所、思っていた言葉とは違っていた。
風見さんが私に頼んでいる事は凡そ、今の私にはできないと思っていることで。
「降谷さんには貴女が必要なんです。だから、もうこれ以上、あの人の前から居なくなることは・・・やめて頂きたいんです」
・・・まるで、彼の前から逃げたのは今回が初めてではなかったような言い方。
私は、以前にも似たようなことをしてしまったのか。
「・・・・・・」
・・・していたじゃないか。
忘れようとして・・・沖矢さんの所に。
あの時も彼の前から・・・。
いや、それだけじゃない。
私は、何度も・・・何度も・・・。
その度に私は・・・。
「ッ・・・」
また、突然苦しくなって。
でもこの苦しさは、思い出そうとしている時に来るものではない。
これは・・・この苦しさは、彼への申し訳なさから来るもので。
そんなもの、私が感じる資格なんて無いのだけど。
「勝手だとは分かっています。如月さんに、以前のような感情が降谷さんに無いのであれば・・・これ以上は言いません」
・・・無い、ことはない。
けれど分かっているのは、好きだったという感情だけで。
今も本当にそうなのかは・・・そのつもりだけれど、この感情は実は錯覚なのではないか、なんてことも思う始末で。
「記憶が戻る保証はありません。それでも私は、貴女にも降谷さんが必要だと思っています」
それは・・・何となく、分かる気がする。
でも、傍に居れば彼や公安の人達に迷惑が掛かってしまうのも・・・また事実で。
「降谷さんを・・・守ってください」
徐ろに立ち上がったと思えば、風見さんはそう言って深々と頭を下げた。
「か、風見さん・・・っ、頭上げてください・・・!」
・・・私が、彼を・・・守る。
そんなこと、私にできるだろうか。
迷惑や心配ばかり掛けている私に。
自分のことすら面倒を見られない私に。
傍にいる資格が、あるだろうか。