第83章 戻ると
「やはり、降谷さんについて記憶が・・・」
その先を、風見さんは濁して。
無いとハッキリは言えない、確信できていないということか。
誤魔化すべきか、正直迷った。
「・・・全く無い訳ではないです。でも、殆ど曖昧な状態です」
分かっているのは、降谷零が好きでたまらなくて、無くてはならない存在だったということ。
・・・それくらい。
「いつから、そうだと・・・?」
「如月さんが病院で目を覚ました直後に、違和感を感じたので・・・」
風見さんがその時に違和感を感じているのであれば、零にとっては違和感どころでは無かっただろう。
もし私がその立場だったら・・・どうなっていたんだろう。
「じゃあ、彼は分かっているんですね」
「・・・ええ。でも・・・」
目を伏せ、再び言葉を濁す風見さんに視線を向けると、彼は両手を組んでは強く握り、眉間に深く皺を作っていた。
悲しさ・・・悔しさ・・・やるせなさ・・・。
そこから感じる感情は一つでは無いが、ハッキリ感じ取ることもできなくて。
「降谷さんはそれを信じようとはしていません」
「・・・どう、いう・・・」
私が記憶を無くしている事実を、受け入れようとしていない、ということ・・・?
「このままでは、降谷さんが壊れてしまいます」
壊れる?彼が?
そんな様子、私の前では見せなかっ・・・。
「・・・!」
いや、見せていた。
それも、ついさっき。
彼が、涙を流すなんて。
それをハッキリ見た訳ではないけれど。
あれは確実にその跡だった。
彼が涙を流すことが珍しいと思えた理由は、分からないままだけれど。
「・・・風見さんは、どうしてほしいですか」
沖矢さん達のように、タイミングが良い今、私と彼を引き剥がしたいのか。
自分自身、納得も意思も無いが、それがベストだとは思ってはいる。
「・・・私は・・・」
重たそうに口を動かしては、風見さんは言葉を静かに吐き出し始めた。