第82章 消える※
「どういう事・・・安室さんって・・・」
聞いている最中も、その名前には覚えがあるような気がしてならなかった。
風見さんが呼ぶ降谷零と。
コナンくんが呼ぶ安室さんと。
何が、違うのだろう。
「如月さん」
改まったように、僅かに声を低くしてコナンくんに名前を呼ばれれば、自然と背筋が伸びて。
同時に、小さく肩を震わせた。
「証人保護プログラム、受けるんだよね?」
「・・・ッ」
聞いてどうするのか、ということか。
証人保護プログラムを受けるという話が再度持ち上がったのは、私が零について記憶が薄れてしまったからだ。
受ける決意を半ば固めつつあるのに、無意識の内に降谷零という人物を、思い出そうとしてしまった。
「・・・ごめん」
視線を下げ、服を掴むと下唇を噛んだ。
・・・結局私は、どうしたいのか・・・分からなくなって。
「組織のことは、覚えてるの?」
「・・・多分」
ここ最近起こった出来事は、覚えているつもりだ。
でも、それが全てなのか・・・今となっては判断ができない。
「バーボン、は?」
・・・バーボン。
「・・・・・・」
知ってる。
そうだ、私はあの日バーボンと情報屋に会いに行った。
その顔は・・・。
「・・・零・・・」
彼そっくりだった。
否、彼自身だった。
「そこは覚えてるんだ・・・」
呟くようにコナンくんが言葉を漏らしたことによって、それは真実ということに気付いた。
降谷零は安室透であり、バーボンでもある。
でもハッキリ思い出した訳では無い。
何故、彼に幾つも名前があるのかは、分からず終いだ。
「・・・ッ」
・・・駄目だ、また思い出そうとしてしまった。
できればこれ以上、彼について何も聞かないでほしい。
けど、彼らも状況を把握したいことに変わりはないのだろう。
「とりあえず、色々準備ができるまでは昴さんの家に居てね。向こうが落ち着いたら、そのバッジに連絡が来るだろうから」
そう言ってコナンくんは、握ったままだった私の拳の中の探偵団バッジを徐ろに指差した。