第82章 消える※
「これ・・・コナンくんのだったの?」
「うん。因みに赤井さんが持ってるのは灰原の」
灰原・・・哀ちゃんのことか。
そういえば彼女も、私が組織に関わることを良しとはしていなかった様子だが・・・この事は知っているんだろうか。
・・・今更気にしても仕方が無い。
恐らく近い内に、私は別人になるのだから。
「!」
そして、赤井さんからの連絡は思ったよりも早く届いた。
電子音を響かせるバッジの応答ボタンを押すと、そこからは沖矢さんの声が聞こえてきて。
『彼は去ったが、念の為二十分後にこちらに来てくれ』
「・・・分かりました」
声は沖矢昴なのに、口調は赤井秀一だ。
その事にむず痒いような違和感を感じながら、直ぐに通信は切られてしまった。
「・・・ねえ、如月さん」
「何・・・?」
いつの間にかソファーから降り、立ち上がってポケットに手を突っ込んだ状態のコナンくんが、こちらを真っ直ぐ見つめながら切り出して。
彼もまた、江戸川コナンの皮を被った工藤新一。
その片鱗が垣間見える目付きが、背筋に冷たいものを走らせた。
「証人保護プログラムについての如月さんの本当の気持ち・・・聞かせてよ」
「・・・・・・」
本当の気持ち、か。
「・・・よく、分からないの」
大切な人である、降谷零が誰なのか・・・記憶をハッキリはさせたい気持ちはある。
でも思い出せば・・・証人保護プログラムを受けたくなくなってしまうかもしれない。
これ以上、周りに迷惑を掛けないためにも受けた方が良いのは分かっている。
でも、彼を忘れたままで良いのか・・・。
仮に証人保護プログラムを受けて、いつか思い出す日が来たら。
その時私は、自分の選択が間違っていなかったと言えるだろうか。
考える猶予なんて与えられていないし、そもそも選択権なんて無いんだろうけど。
それでも自分の中の迷いは、早々に経つ事はできなかった。