第82章 消える※
念の為、バッジの音は切って。
息を殺しながら壁沿いに進んで行き、家の角を曲がろうとした瞬間だった。
「・・・っ!」
誰かに手を引かれ、思わず声を出しそうになって。
それでもなんとか飲み込んで耐えると、手を引いた人物に目を向けた。
「しっ・・・」
目の前の彼は人差し指を口元に当て、静かにするようジェスチャーで示してみせた。
見た目は小学生だけど・・・中身は高校生の。
「コナンくん・・・」
彼のこともきちんと覚えていることに、安心と胸のざわつきを同時に覚えた。
「こっち、来て」
そのまま引いていた手を握ったまま、彼は阿笠邸へと向かった。
状況を把握している様子からして、赤井さんと手を組んでいるのか。
ということはコナンくんもきっと、私が証人保護プログラムを受けることに賛成なのだろう。
・・・今更、考えるまでもないか。
「足、これで拭いて。ここにスリッパ置いとくね」
「ありがとう・・・」
まるでここに私が来ることも予想していたみたいに。
全ては阿笠邸の裏口に、全て準備してあった。
言われた通りに足を拭いてスリッパを履くと、中へと更に足を進めて。
「僕のことは覚えてるみたいだね」
・・・どこまで私の記憶のことはリークされているのだろう。
彼らが零に話すとは思えないが・・・それでも、コナンくんにまでバレていることに、少なからず不安は覚えた。
「今のところ、零以外の記憶は、大丈夫」
皮肉な事に、欠落しているのは本当にそこだけ。
「安室さんについて、どこまで思い出してるの?」
・・・安室、さん?
「零、の・・・こと・・・?」
でも彼の名前は降谷零では・・・。
「・・・そっか、安室さんも分からないんだ」
ソファーへと腰を下ろした彼の向かいに、私もゆっくりと腰を下ろして。
会話の流れから、安室さんというのが恐らく零だというのは想像がついた、けど。
何故、コナンくんが零のことを安室さんと呼んでいるのかが分からなくて。