第82章 消える※
『少し家の中を見せて頂きますよ』
『ええ、どうぞ。でもあまり引っ掻き回さないでくださいね。僕の家ではありませんので』
・・・どうしよう。
赤井さんの指示でここに隠れはしたものの、零がここを探さない保証は無い。
そもそも・・・何故、彼はここに私がいると思ったんだろう。
『それと・・・もう一つ、言っておきたいことが』
『なんでしょう?』
改まったように、零は沖矢さんに言葉を付け加えて。
彼らの状況が分かるのはありがたいけれど・・・零からの威圧的な雰囲気が、バッジからでも伝わってくるのが痛くてたまらない。
『彼女に証人保護プログラムを受けさせようなんて・・・思ってないですよね?』
・・・今までに無く、低く、怖く、強い口調で。
それはほぼ、沖矢さんへの命令と言えた。
『証人保護プログラム?何のことでしょう?』
怖い。
敵意が剥き出しの零も、簡単に嘘をついてしまう沖矢さんも。
どうする事もできない、この状況も。
「!」
為す術もないままバッジを握っていると、段々と足音が近付いてくることに気付いた。
近くの部屋の扉を・・・順に開けられている。
どうしよう。
ここから出れば確実に見つかってしまう。
・・・どうしよう。
「・・・!」
見回している最中、目に付いたのはお風呂場の窓。
ここから外に出れば、見つかることは無いはず。
「・・・っ・・・」
だけど。
・・・何故、私はこんなにも必死になっているんだろう。
零の言うことではなく、沖矢さんの言葉に従っているんだろう。
・・・以前にも似たようなことが、あった気が・・・。
「!!」
お風呂場のすぐ近くまで足音は迫っている。
とにかく今は、彼に会ってはいけない。
本能がそう思ったから。
慌ててお風呂場の窓を開けて外へと出ると、音を立てないように外からその窓を閉めた。
とりあえず家の裏側の方へ。
そう思い、裸足のままバッジを握りしめて、ゆっくり足を進めた。