第82章 消える※
「・・・ッ」
沖矢昴が赤井秀一だということは、誰にも言えない・・・言わない約束だったはず。
・・・それは零にもそうだったのだろう。
でも沖矢さんに嫌悪感を向けているということは・・・その事にも彼は勘づいているのだろうか。
「ひなたさん、来てますよね?」
「彼女ですか?そういえば暫くお見かけしませんね」
・・・息をするように嘘をつく沖矢さんに、小さく唾を飲んだ。
「・・・少し、上がらせてもらっても?」
「ええ、どうぞ」
ここまでは赤井さんも予想していたのだろう。
だからティーカップを一つにしていた。
ティーカップが二つあれば、誰かと飲んでいたのは明白。
でも一つなら。
例え私が飲んでいても、沖矢さんが飲んでいたと言えるから。
零ならそれくらいは当たり前に・・・。
・・・零なら?
「・・・あ、れ・・・」
何故今、零なら・・・と思ったんだろう。
彼がどういう人なのか、思い出せないのに。
・・・彼が公安警察だから、だろうか。
「・・・て、たん・・・ですね・・・」
途切れていた彼らの会話は、さっきまで私達がいた部屋で再開された。
けれど、ここからでは上手く聞き取ることができない。
そう思っていた頃。
「!!」
お風呂場の隅の方で、小さく電子音が聞こえて。
恐る恐るその方向へ目を向けると、小さなバッジのようなものが落ちていた。
「これ・・・」
見覚えがある。
これは、コナンくんが持っていた探偵団バッジだ。
でも、何故これがこんなところに。
『ティーカップ、取ってきますね』
『お構いなく。直ぐに帰りますから』
・・・彼らの会話が、そこから聞こえる。
ということは、沖矢さんもこのバッジを持っているということか。
私がここに来て、零が追い掛けてきて、私がお風呂場に隠れるところまで・・・赤井さんは読んでいた。
完全に彼の思惑通りに進んでいるということか。