第82章 消える※
一度、絡まった脳内をリセットするように差し出されたミルクティーに口を付けては、小さな違和感を覚えた。
「・・・飲まないんですか?」
いつもなら彼も一緒に飲むのに。
今日は私の分しか用意されていない。
「恐らく、来客が君だけではないからな」
「・・・?」
これから飲むことが予定されているから、今は飲まないということだろうか。
まあ、別に私は構わないのだけれど。
「もしその来客があった場合、君は少しの間、身を潜めていてもらいたいんだが」
・・・そういう、事か。
その言葉で赤井さんが言いたいことが、何となくだが分かった気がして。
何故ティーカップが一つなのか、何故その来客時に私が隠れるのか。
・・・その来客が、誰なのか。
「!」
そんな会話の最中、インターホンは突然鳴らされた。
タイミングを見計らったかのように、想像していた人物によって。
それを赤井さんと二人で確認すると、彼は変声機にもう一度手を掛け、風呂場へ行くように私へ指示をした。
別に従わなくても良かった。
けれど、証人保護プログラムを受けると半ば決めた今、そうするのが一番だと思えたから。
「・・・っ」
インターホン越しの彼には悪いと思ったが、風呂場へと急いだ。
沖矢昴に戻った赤井さんは玄関へと向かい、その扉をゆっくりと開いて。
それと同時にお風呂場のドアを閉めると、息を殺すように身を潜めた。
「・・・こんにちは、沖矢昴さん」
「こんにちは。何か御用でしょうか?」
薄らとだが、彼らの会話は聞こえる。
沖矢さんと・・・零の。
彼らは知り合いだったのかと思う中、一つ感じたのは、さっきまでの零の優しい雰囲気とは・・・全く違うものであるということ。
とても怖く・・・沖矢さんへの嫌悪すら感じる。
二人は仲が悪かったんだろうか。
そういえば、どこかで会っていた気もする。
でもそれは・・・。
・・・いや。
彼と仲が悪かったのは、沖矢昴ではない。
・・・赤井秀一だ。