第82章 消える※
「あの倉庫の情報を聞いて向かってみれば、君とあの男が居た。寧ろ驚いたのはこちらの方だ」
FBIにも公安にも目をつけられていたあの男・・・一体何者だったんだろう。
何か言ってた気もするが・・・これは思い出したくもない。
「あの男が連行された後の君の反応を見れば、大体の事は察しがついた。悪いと思ったが、病院での彼と君の会話は無線機で盗聴させてもらった」
盗聴について今更どうこう言うことは、もうやめておくとして・・・それだけで、私の記憶が欠落していることを察したのか。
そういうボロは出さないように気を付けたつもりだったけれど。
赤井さんが気付いているということは、彼は当然・・・。
「・・・もしかして、私を連れ込んだ男性を撃ったの・・・赤井さんですか・・・?」
「ああ。死人が出かねなかったんでね。撃ったのは奴が持っていた銃だがな」
死人、か。
それはきっと風見さんのことを指している。
確かにあの時、一歩間違えれば風見さんが撃たれていた。
・・・その事も含め、風見さんのことはきちんと覚えているのに。
ぼんやりとその先にいる彼のことは、まだ思い出せない。
「それで・・・零について覚えていないことに気付いて、証人保護プログラムを受けるよう説得しに来た・・・ということですか」
あれから私が一人になるタイミングを伺って。
「半分はそうだが、半分は違うな」
「半分・・・?」
姿は沖矢昴のままの赤井さんは、私にミルクティーを差し出しながら、そう答えて。
「いずれ分かる」
相変わらずハッキリと答えはしない。
赤井さんはそういう人だ。
・・・彼は、どうだったんだろう。
今日少しの間だけれど過ごしてみて、何より私を大事にしてくれていることは、痛い程分かった。
料理が上手くて、触れる手は少し冷たくて。
優しく名前を呼ぶ声が、とても落ち着いて。
触れる度、心臓が高鳴る度、過去の気持ちだけが思い出されるようだった。