第10章 恋して
「本当はずっと言うつもりじゃなかったんですが・・・。ひなたさんが可愛くて抑えきれませんでした」
そんなこと言われると本当に心臓が破裂してしまう。恥ずかしさから、安室さんを抱きしめる腕に力が入る。
「・・・そんなことされると本当に抑えられなくなります」
安室さんも強く抱き締め返してきて。見た目よりもしっかりとした体つきに、更にドキドキして。
「ひなたさん」
抱き締められたまま名前を呼ばれる。少しだけ顔を動かして無言の返事を返した。
「・・・名前で呼んでくれませんか」
するりと私の腕から抜けて、離れる体。お互いしっかりと顔が見える距離。
途端に恥ずかしさから目を逸らしてしまって。
「僕の目を見て」
意地悪そうな声。でも、その声も好きで。
全部、安室さんだから。
逸らしてしまった視線を、ゆっくりと安室さんの瞳へと持って行く。彼は真っ直ぐ私だけを見ていて。
「・・・と、・・・る・・・・・・さん」
「聞こえないです」
「・・・っ・・・!」
酷い顔を見られたくなくて、片手の甲で顔を覆うが簡単に取られてしまう。
「さあ、どうぞ」
何だか楽しんでいるようにも見える安室さんに何もかも乱されて。そんな状況に、なるようになれと自暴自棄になっている自分もいて。
「と、とおる・・・さん・・・っ」
勇気も声も振り絞るように彼の名前を呼んだ。
ただ名前を呼ぶだけなのに。妙な恥ずかしさがあって。
「・・・ありがとうございます」
何故か安室さんにお礼を言われる。ただ名前を呼んだだけなのに。
「・・・透、さん」
「なんですか?」
「これからずっと・・・透さんって呼んでも、良いですか・・・?」
「勿論」
優しく向けられるその笑顔にまたドキッとしてしまって。やっぱりこの人笑顔が好きだなあ、と改めて感じた。
暫くの間お互い見つめ合って。この時間を噛み締めるように。
自然と、ゆっくりと落ちてくる透さんの顔に、優しく瞼を閉じた。