第82章 消える※
「前回から、少し時間が空いてしまったな」
数分後、私が顔を上げたのを確認して、彼は立たせるように私の肩へ手を添えながら話した。
そう話すということは、やはり前回来たのは彼とで、いつもこのお墓の手入れをしているのは彼ということか。
・・・そんな会話を、その時にしたような気もする。
でもやはり、それが本当なのか・・・はっきりとは思い出せなかった。
「いつも・・・ありがとうございます」
手馴れた様子で手入れを始める彼を見て、自然とそう言葉が出た。
それを聞いた彼は一度小さくこちらに視線を向けると、少し目を伏せて。
「僕の大切な仲間だからな」
・・・仲間。
そうか・・・彼は風見さんの上司だから警察官で・・・兄もそうだったと聞いた気がする。
彼は、公安警察で・・・そして・・・。
「・・・ッ・・・」
・・・組織。
そうだ、組織。
兄がいた組織に。
「・・・ひなた?」
曖昧になっていた自分自身の記憶が、段々と戻ってくるように思い出してくる。
それと同時に、強い頭痛を感じて。
「・・・っい・・・ッ」
思わず頭を抱え、顔を歪めた。
「大丈夫か・・・!?」
・・・ああ、この声。
知っているのに・・・知っているのに。
記憶の引き出しに鍵が掛かっているようで、思い出せない。
その鍵をどうにかしようと思えば思う程、頭痛は強くなる一方で。
「ぃ・・・、零・・・っ」
か細い声で彼を呼んで。
「一度車に戻るぞ」
縋りついていたところを抱き抱えられ、彼は来た道を引き返していった。
密着していると、彼の香りを強く感じる。
その香りに包まれていると・・・頭痛も幾分か和らぐようで。
彼の服を掴む手の力を、更に強めた。
「・・・すまない・・・」
その時に微かに聞こえた声は、気の所為ではなかったはず。
それは切なく、震えた声で。
謝らなければいけないのは・・・私の方なのに。