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【安室夢】恋愛ミルクティー【名探偵コナン】

第82章 消える※




「どこ・・・行くの・・・?」
「秘密」

優しい笑顔を向けられながら、人差し指を口元に当てては、そう言われた。

まだ彼については手探り状態で。

彼には、彼についての記憶が無い事を悟られてはいけない。
そんな気がするから。

バレている可能性もあるが・・・なるべくその可能性は考えないようにした。

彼がドアを開けてくれた車に乗り込み、どこかへと目的地を告げられないまま車は発車された。

「・・・・・・」

懐かしい。

単純にそう思った。

私はいつもこの車の助手席に乗っていた。
それは楽しかった記憶ばかりではなかった気もするが。

それでも、彼の傍にいられるここが大好きで。

「・・・っ・・・」

いつも、ドキドキしていた。

それは、私が・・・彼のことを・・・。

彼のことが・・・。

「気分は大丈夫か?」
「えっ・・・あ、うん・・・大丈夫」

いつの間にか向けていた彼の横顔から慌てて視線を逸らして。

心拍数が、どんどん上がっていく。
体の熱も、上がっていくようで。

それは薬のせいではない。

単純な、彼への好意によるものだ。

「・・・・・・」

記憶が薄れてしまっても尚、私の中にあり続ける彼の存在。

このまま、記憶が曖昧な事を黙ったままで良いのだろうか。

・・・考えた所で、言えるはずも無いのに。

ーーー

「覚えているか?」

暫く車を走らせた後に止められたのは、潮の匂いがする場所だった。

・・・ここは、覚えがある。
いや、きちんと記憶の中にある。

何かに引かれるように車を降りると、足は自然と動いた。

茂みを抜け、この先にあるものに向かって。

「・・・・・・」

兄のお墓。

私はここに来たことがある。
それはきちんと覚えている。

きっとそれは、隣にいる彼と。

・・・でも本当にそうだったのかどうかまでは、思い出せなくて。

大事な人の前で、大事な人の事を思い出せないなんて。

崩れるように兄のお墓の前で膝をつくと、手を合わせながら固く瞼を閉じた。




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