第82章 消える※
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「・・・分かった。僕は顔が割れている。後は君達に任せる」
「了解しました」
声が聞こえる。
逆に言えば、声しか聞こえない。
瞼を動かす力が、無い。
さっきまでの記憶が途切れているということは・・・私は、眠ってしまっていたんだろうか。
「降谷さん・・・本当にすみませんでした」
「君が謝ることじゃないだろ。悪いのは君じゃない」
「しかし・・・っ」
・・・風見さんだ。
何か指示を受け、謝っている様子だけど。
その相手を、風見さんは降谷さんと呼んだ。
その名前には聞き覚えがある。
確か、車に乗る前にも一度耳にした。
・・・いや、それよりもずっと前に・・・。
「ひなた・・・!?」
さっきまで動く様子を見せなかった瞼は、無意識の内に開かれていた。
それに気付いた誰かが、私の名前を呼びながら顔を覗き込んでいて。
「大丈夫か・・・っ」
視界に入ってきたのは風見さん、と・・・一人の男性。
知っている。
この人が誰なのか。
「・・・・・・っ」
名前は、思い出せないけれど。
「ひなた?」
目の前の彼は私の名前を何度も呼ぶのに。
私は彼の名前を一度も呼ぶ事ができない。
「・・・大丈夫、です」
力無く、そう一言返事をすると、目の前にいる二人は視線を静かに合わせた。
「降谷さん・・・」
風見さんが名前を呼ぶと、降谷さんと呼ばれた彼は小さく頷いて。
それを確認した風見さんは、静かに私の視界から消えていった。
「降谷零だ」
何故か彼は、改まったように自己紹介を始めて。
そうか、彼が降谷さん・・・か。
私が彼を思い出せないだけで、私達は初対面ではないはず。
けど、今の私にとっては少し有難いとも思ってしまった。
「名前を、呼んでくれないか」
彼は私の手を握りながら、目を見てそう言って。
「零、と」
その手から伝わる彼の体温は、少し冷たく感じる。
「・・・零・・・」
彼の要望通り名前を呼べば、優しい笑顔が返ってきて。
それを見て、何故か胸が張り裂けそうになった。