第82章 消える※
「・・・ふっ、今はそういう事にしといてあげるよ」
男は不敵な笑みのまま笑いを漏らすと、風見さんの合図によって部屋から連れ出されて行った。
それを確認すると、風見さんは心配そうに私の顔を覗き込んできて。
「病院に向かいます。降谷さんも待っています」
・・・降谷さん・・・。
その名前には聞き覚えがある。
彼の、上司だろうか。
「・・・っひぁ・・・!」
発砲音のせいで僅かな時間取り戻していた冷静さも、再びゆっくりと失い始めていて。
風見さんが私を抱き抱えようと触れた瞬間、体は敏感にそれを感じ取り、ビクッと大きく跳ねた。
「す、すみません・・・!」
「大、丈夫・・・っ、です・・・」
シャツに皺ができてしまいそうなくらい、風見さんの腕を掴んで力を込めて。
熱い、苦しい。
その感覚だけは無くならない。
腟内に埋められた玩具も、動いてはいないものの、まだ残ったまま。
寧ろ、それが辛くて。
「・・・!」
突然、風見さんが何かに気付いたように私から視線を逸らすと、一度手を耳の方へと持っていって。
「はい」
短く、返事をした。
「・・・はい、確保しました。ですが・・・」
どうやらワイヤレス式のイヤホンで誰かと会話をしているようで。
その会話の最中、言葉を濁しながら風見さんが私に視線を向けたのを見れば、相手にこの状況を説明し難いと言っているのは明白で。
「・・・失礼します」
少しの間の後、風見さんは耳に付けていたそれを取り外すと、私の耳へと付け直した。
「ん、っ・・・」
それが耳に触れるだけで、また勝手に体は反応を示す。
互いに、そんなつもりは無いのに。
体の熱だけは上がっていく。
そんな中、突然付けられたイヤホンからは声が盛れ出して。
『ひなた』
「・・・っ・・・」
イヤホン越しに聞こえた声が、妙に体へ熱を与える。
私はこの声も知っているはずなのに。
それなのに。