第23章 背徳の足音が聞こえるか(裏)
触れ合った唇を離して至近距離で見る水分の顔は熱に浮かされて、けれどどこか憂いを帯びていた。
「どうして、」
俺の目を見ようとしない水分の声が空気を震わせる。
「どうしてキスなんてするんですか」
「…したかったから、じゃ駄目なのか?」
好きだからだと言えない自分が憎かった。
けれど、もしここで俺が気持ちを口にしたところで、酔っている俺が水分を抱きたいが為に世迷言を言っていると思われでもしたら。そう思うと水分を好きだと告げるのは怖くて仕方がなかった。
なあ、ならお前はどうして俺に抱かれるんだ。そう聞きたいけれど、聞けなかった。この胸に少しだけ抱く淡い期待を打ち砕かれるのが怖くてその言葉を飲み込んで。これ以上何も言うなとその唇を塞ぐ。
ほんの少しの抵抗を見せる水分の手を掴んで押さえ付けて。
「嫌なら、殴ってくれていいから」
殴らせる気などないくせに、そんな言葉を吐いて水分を見下ろせば潤んだ瞳がこちらを見ていた。そのまま、また唇を落とせば抵抗もなく受け入れられて。押さえつけている手を緩めれば指が絡められる。軽く握れば強く握り返されるそれに、まるで恋人のようだと錯覚を起こして。
水分がどうしてキスするのかと聞いたのかだとか、水分の気持ちはどこにあるのかだとか、そんなことは今はもうどうでも良かった。
薄く開いた唇に舌を差し込めばそれに応えるように絡ませてくる。拙いその舌使いにぞわぞわと腰が疼いて自身に熱が集まって膨張していくのがわかった。時折漏れる甘い声が耳を侵して。
「っは…………水分、」
「あい、ざわ、せんせ……っ」
熱に浮かされた声で互いの名を呼び合えば、ほかの言葉なんて必要なかった。言葉にしなくたって互いが互いを求めていると分かってしまう。そこに望むような感情がなくとも、体は貪欲に快楽を求めてしまう。