第22章 嗤うペテン師は咽び泣く
これを飲んだら。
どこか妙な決意を胸に煽るグラスの中身は味も何もしなかった。緊張で酔いも覚める。いざ素面で──多少は酔っているが─抱こうと思うとこうも臆病になるのか。
もしも水分に拒絶されたら。そんな嫌な考えが過ぎって、やはり今日も何もせずに終わろうなんて。少し大きめのTシャツにショートパンツというラフな服から伸びる腕にも脚にも触れたくて仕方がない癖に。
隣でちびちびとワインを飲む水分と目が合って、どくり、どくりと煩くなる鼓動。
「相澤先生?」
こてん、と首を傾げてこちらを見やる水分の瞳は酒のせいか少し潤んでいる。吸い寄せられるように頬に手が伸びる。触れる瞬間にびくりと揺れる体。
「悪い、嫌だったか」
そのまま触れていたい気持ちを抑えて手を引こうとすれば、その手の上に重ねられたのは水分の手で。まるで擦り寄るように頬を寄せる水分に心臓がドクドクと煩く動く。
「…嫌じゃ、ないです」
目を閉じて俺の手に触れる両手はまるで慈しむようで。まるでそこに愛でも存在するかのように触れるその手は熱かった。
「ねえ、先生、酔ってます?」
閉じていた瞼を持ち上げたその先にある瞳は俺を捕らえて離さない。
「……酔ってないよ」
「ふふふ」
「なんだよ」
「いーえ、なんでもありませんよ」
ゆるく口角を持ち上げた水分はどうせまた同じことを言っていると思っているんだろう。明日には忘れてるくせに、なんて。
酔ってなどいない。お前を抱きたいから、酔ったふりをしているだけだ。どんなに心が痛んでも、それでも水分が欲しいと思ってしまうのはあまりにも愚かしいと分かっているのに。そんなことをしたって#苗字水分が俺のものになるわけでもないのに。
「相澤、先生……」
俺を呼ぶその声は先程までとは違って明らかな熱を孕んでいる。なんだっていい。今は何も考えずに、水分に溺れてしまえ。
「、っ……」
何かを言いかけたその唇を塞いで、欲望に身を委ねる。俺も、水分も、ただの男と女に。