第22章 嗤うペテン師は咽び泣く
コンコン、と控えめなノックが聞こえて扉を開ければ水分がそこにいて。どうやら風呂上がりらしい、少し蒸気した頬と纏め上げられた髪。ふわりとシャンプーのものと思われる甘い香りが鼻腔を掠める。
「これ、途中でミッドナイト先生にお会いして」
そう言って手渡されたのは一本のワインボトル。聞けばお祝いだと渡されたと言う。これがミッドナイトさんが水分に渡したのだろうと、水分が俺を酔わせようと持ってきたのだろうと関係ない。ここに持ってきたということは、水分は凝りもせずに俺を酔わせようとしているということ。
それならば、乗ってやる。酔ったフリをしてでもお前を手に入れてやる。
明日のことを簡潔に話し終えて、そのボトルを開ける。急拵えでの引越しだ、ワイングラスなんて洒落たものはないが飲めればなんでもいい。適当にグラスを二つひっぱり出して赤紫色を注ごうとしたところで水分が口を開いた。
「……先生は、」
途中で止められたその言葉に顔を上げれば不安気な顔の水分と目が合う。
「先生は、私なんかと噂になって……いいんですか」
愚問だ。お前とだから、俺は。
「……じゃなかったらそんな提案乗るかよ」
聞かなくたってそれくらいわかるだろ、そう思ってグラスを手渡せば伏し目がちにそれを受け取る水分の隣へもうひとつのグラスを手に腰掛ける。