第21章 ロマンスに憧れて
「合理的虚偽、かあ」
思わず握り潰してしまった缶から溢れ出たビールで濡れた体を流そうと浴場へと向かう。相澤先生を待たせるのは悪いけれど、少し頭を冷やすためにもこれくらいの時間は許して欲しい。
(事態を収めるにはそれが手っ取り早い……)
先生が言った言葉を脳裏で反復する。確かに否定して変に勘ぐられるよりは肯定してしまった方が早く収束するだろう。
私の案に乗ると言ったその時、ほんの少しだけ期待してしまった。先生は私の気持ちを分かってて言ったんだと思った。それはつまり、報われる可能性があるのではないかと。
だからこそ、その先に続く言葉に怒りが湧いた。私が断れないのをわかっていてそんなことを言うのだ。面倒を回避するためだけの、合理的な虚偽。偽りでも恋仲になれるなら、そんな私の気持ちを利用して。
利用されているとわかってはいても、結局肯定を示してしまう私はなんて愚かな女だろうか。偽りでも、相澤先生は私のものだと周囲に知らしめてイレイザーヘッドに、相澤先生に好意を抱く私以外を一掃したい。
そんなことをしたって手に入るはずもないのに。ただ自分を苦しめるだけなのに。