第18章 消えた夜を繋いで
……おかしい。
「おい、水分、送ってやるから帰るぞ」
おかしい。
「この酔っ払いが」
おかしい、なにかが、おかしい。
「せんせー」
「……なんだ」
ねえ、おかしいよ、先生。
「なんでもないでーす」
嘘。聞きたい。なんで私の前で酔わないようにしてるんですか、と。
決して飲まない訳では無い。ただ、確実にセーブしている。あの日以来、私を抱いてくれない先生はなにかに気付いたのだろうか。それなら何故なにも言ってくれないのだろう。それならどうして私を誘って飲みに行くの。あの夜、私につけられたあの華はもう全て消え去って久しい。あれはなんだったんですか。どれも、どれも聞けないまま。
「ほれ着いたぞ、はよ降りろ」
「うーーーーーー、」
聞きたいのに聞くのが怖くて結局聞けないまま、何度目かもわからない、何も無い夜の終わりを迎えて。
「水分……」
「すみません大丈夫です、う、わっ」
あの夜みたいに縺れた足。車内に残る先生の手が伸びてきて私の腕を掴む。
「あー、すみません……」
「……送ってく」
「大丈夫ですって、すぐそこですってば」
だってどうせ、私の部屋まで来たとしたって、先生は私を抱いてなんてくれないでしょう。それなら虚しくなるだけだから。だから、一人でいい。
揺れる地面を睨み付けて踏み出した足は腰に回された腕によって止まる。
「せ、んせ……?」
「んな千鳥足で何言ってんだ、素直に甘えとけ」
触れられた体は、簡単に熱を持つのに。先生の瞳にも、声にも、なにも含まれていない。
すぐ戻ります、運転手にそう声を掛けて歩みを進める先生に凭れ掛かるようにして踏み出す足はヨロヨロと定まらない。
「お前、随分飲んだな」
「んーーー、先生と飲むお酒は美味しいですからねえー」
違うの、そうじゃない。私につられて先生がもっと飲むのを期待してるの。今日まで尽く失敗に終わっているけれど。