第17章 愛が泣くとも
目を覚ました時には、ベッドの上に一人だった。
そこに確かにあったはずの温もりなど疾うに冷え切っていて。夜が明けきらない内に、酔いの醒めない内にここを後にしたのだと安堵するような、寂しいような。
もしあのまま先生も私と同じように微睡みに身を任せてここで眠りに落ちていたら、目を覚ました先生はどうしたんだろうか。私は、どう取り繕っていただろうか。言い逃れできない状況下でようやく露呈するこの関係は、どう動いただろうか。終わりしか見えないそのもしもに心を馳せて苦笑する。
身体が重い。腰が、重いなんてもんじゃない。何度も何度も私を求めるように掻き抱く先生に熱は鎮まるどころか上がっていくばかりだった。
満たされた身体と反比例するように虚無感に苛まれる心。分かっていて足を踏み入れたこの関係に咽び泣く私の愚かさを誰でもいいから嘲笑って欲しい。それでも求める浅ましさを愚弄して欲しい。
「あー、頭痛い……完璧二日酔いだ」
ズキン、ズキン、と痛む頭と重く痛む腰を労わるようにようやく起こした体を見下ろして絶句する。無数の赤が散らばるその光景に昨夜を思い出して。
いつもなら絶対にしないキスを受けて、上鳴がつけた痕に──もう一つは先生がつけたものだが─まるで嫉妬するみたいに噛み付いて。そこにない愛を求める私を抱くその姿が脳裏にこびりついて離れない。
鬱陶しそうに髪を掻き上げる手、額から滴る汗、私を見下ろす熱の篭った瞳、傷だらけの引き締まった逞しい身体、慈しむように触れる骨張って少しカサついた指、まるで愛がそこに存在するかのようなキス。
一度だけでは足りないと、私を抱き上げるその腕の感覚も。昨夜の先生はいつも以上にそこに愛を漂わせて。
また、そんな風に私を抱いてほしい。どろどろに、骨の髄まで溶かすくらいに、まるで愛を与えるみたいに。
そこに先生の愛が無くとも。
そこに確かに存在する、私の愛が、泣くとも。