第16章 愛が無くとも
「なあ、誰だ」
「か、上鳴が……、ひっ」
もう一度問えば返ってきた答えは案の定思っていた男の名で。想像通りの返しに思わず手に力が篭る。なんだ、やっぱりそういう関係なんじゃないか。それとも水分は──
「……誰でも、いいのか」
「ち、ちがっ……違うの、先生っ!」
何が違うんだ、こんなものを付けられたその躰で、俺を誘って。熱に浮かされたその躰を鎮めてくれる相手なら、誰でも、いいんだろ。だってお前の躰にはまだ。
「ここ、は?」
首筋の痕に唇を落として問うたその答えも分かっているのに。
「そ、れはっ……」
聞きたく、ない。水分のその濡れた唇から他の男の名を紡がれるのは、もう耐えられそうにない。
「あー、いい、言うな……今だけは、水分は俺の、」
せめて今この瞬間だけは、俺のものに。
忌々しいその痕にがぶり、と噛み付いて。
「痛っ、せん、せ……痛い……っ!」
俺も、痛いよ、水分。こんなに苦しいなら、恋なんてものはやっぱり合理的じゃない。最初で最後にするから、だから、お願いだ、今だけでいい、全てを俺にくれ。
そう、願うように唇を落としていく。うなじ、耳、首筋、鎖骨、そして少し荒くなった呼吸に合わせて上下する胸。その先で主張する突起には触れないようその周りを舐め上げる。触れて欲しそうにふるふると揺れる胸に目を細めて。焦らして、焦らして、他のことなんか考えられなくなるくらいにぐずぐずに溶かしてやる。
もどかしげに擦り合わされる太腿を膝で割り入って秘部へぐりぐりと押し付ければ、意味を成さないショーツを通り抜けた蜜が、俺の膝を濡らす。
「……なあ、どうされたい?どうして欲しい?」
膨らみから口を離して見下ろす水分は頬を赤く染めて涙を浮かべて、視線だけでも俺を誘う。
「私を、……わたし、を、愛して」
「もう、めちゃくちゃに、して……」
───ゾクゾクゾクッ
放たれた言葉に沸き立つ血が全身を巡る。ああ、そうだ、俺を、俺だけを見て求めてくれ。
有り余る愛を、湧き上がる感情のままに注ぎ込むから。
そこにお前の愛が無くとも。