第16章 愛が無くとも
夢かもしれない。そう思いながら水分をこの腕に引き寄せて。
何度も、何度も夢にまで見た水分の薄く柔らかい唇を喰らう、その感覚は明らかにこれが現実だと物語っているのに。
「……っ抱いて、くれないんですか」
「ねえ、せんせ」
「先生、お願い」
水分の口から出た言葉に上鳴との関係に疑念を抱いていた気持ちも理性も呆気なく崩れ去って。水分が求めたのはただ熱を鎮める相手であって、酔えば記憶を失くす俺は都合のいい存在なのだと、そう理解しところで好意を抱く女が自分を求めるその声に抗うことなど出来るはずもない。
目の前で俺を誘う言葉を紡ぐその唇を貪り喰らう。時折鼻から抜ける艶っぽい声に、自身が熱を持つのが分かった。少女だと思っていた水分はもう、立派な女の妖艶さを孕んでいた。
酸素を求めて背を叩かれて、名残惜しいがそれに応じて唇を離せばまるで俺の心を表すかのように離れ難いと銀糸が二人を繋ぐ。水分を見下ろせば、蒸気した頬にとろんと潤む瞳。夢で見る以上に煽情的なその姿に滾る熱は下腹に熱を集めた。
熱に浮かされる水分に唇を落として、白い肌を隠す布を剥いでいく。
「だ、だめ……!」
肌蹴たブラウスを胸の前に寄せて、双丘を隠す水分。水分から誘っておいて、今更止めるなんて無理だ。悪いがそこまで人間出来ちゃいない。それも、好きな女に誘われたのに。
「今更止められるかよ……お前が、水分が欲しい」
口から出た言葉に力の緩んだ水分の手を退ける。
そこに現れたのは、何度も夢に見た白肌──だけではなくそこに浮かぶ赤。
脳裏を過ぎる、上鳴と水分が並んで歩く姿。
あいつが付けたに違いない、憎い所有印に歯を立てれば水分が痛みに声を上げる。
「……なあ、これ、誰に付けられた」
聞くまでもなく分かりきっているのに、怒りとともにそんな問いを水分に投げつける。水分の肌に咲く赤に指を這わせれば吸い付くような肌に誘われるままその膨らみを揉む。時折触れる乳首はすっかり勃ち上がっていて触れる度に薄い唇から微かな喘ぎが漏れた。
「っふ、……はぁ、んん」
悩ましげな声を上げる水分のその声を、あいつも聞いたのか。