第13章 錆びつく夜に
店を出てからも行く行かないの押し問答をする三人をよそに走るタクシーを捕まえて。
「あの、すみませんが私はこれで……」
この人たちがそういったお店に行こうが行かまいが私には関係の無いことだしなあ、と思ってそう声をかけたところで上鳴が言った。
「そうだ、相澤先生は行かないんなら水分送ってってやってくださいよ」
「は?」
「え?」
互いに間抜けな声を上げて見合う。先生が、私を?
そんなことしたら、きっと私は先生を引きずり込んでしまう。都合のいい理由をつけて、また先生を手に入れようともがいてしまう。そんなのは、駄目だ。そしてまた一人傷付くだけ。何も思ってなどいない私を、酔っているからとはいえ躊躇いなく抱く先生に。
「いや、一人で帰れるよ……子供じゃあるまいし」
「俺達からしたら子供みたいなもんだぜ!」
マイク先生、それ今の私には禁句です。子供と変わらないなんて。
「……だ、そうだ。それにな、お前結構足元フラついてるぞ。ほれ、さっさと乗れ」
それを否定せずに寧ろ肯定するような先生も。私なんて、あの時の生徒のままなんだ、それをまざまざと思い知らされて、そんな状態で先生と二人になるのは嫌だった。
「え、そんな、先生の手を煩わせるわけには……」
「いつもと逆なだけだろ、たまには返させろ」
私の遠慮も虚しくいいから黙って言うこと聞けと言わんばかりに腕を掴まれて。「いつもと逆って何!?もしや二人はそういう関係!?」なんて言うマイク先生を無視して「いいから乗れ、早よ」そう言って私をタクシーへと押し込んで、先生も乗り込んでくる。
「じゃあなー、水分。またなんかあったら連絡寄越せよ」
やたらいい笑顔で手を振る上鳴にひらひらと手を振り返して。お前おぼえてろよ、という気持ちを少しだけ込めながら。
「消太!お前送り狼になるなよ!」
「……ならねえよ」
ぽそりと呟かれたその返しに、どうやって送り狼に仕立て上げようかなんて考えて。傷付くのは嫌なのに、傷付くための方法を模索している。なんて、滑稽だろう。
そこまでして、手に入れたいのだ。そこに心がなくたって、その体を。