第11章 嘘つきアーモンド
授業を終えて職員室へ戻ると水分を囲むように13号、ミッドナイト、マイクが集っていて。なんだ、揃いも揃って。そう思いながら近付けば聞こえてくる言葉に思わず眉を顰めた。
「っておい!水分お前それまさかkissmark……」
「そうなのよマイク!見てこの羞恥に塗れた顔……そそるわぁ」
「何やってんだお前ら」
嫌なもの、思い出させやがって。口から出た言葉は存外に低く、怒りを含んでいた。
「見ろよイレイザー!!水分kissmarkついてん、痛ァ!?」
「……それがどうした」
そんなん、俺は朝から知ってる。少しだけ忘れかけていたそれを思い出させられ、イライラが収まらない。
それを察知したらしい3人がそそくさと去っていくのを確認して、結い上げられて顕になった水分のうなじを横目で見る。
くっきりと残るその痕が「水分は俺のだ」と言っているようで無性に腹が立った。
「水分、とりあえず髪下ろせ」
そんなもの、俺に見せないでくれ。手に入れる度胸も無いくせに、まざまざと見せつけられる他人のモノだという証に沸き起こる怒り。
こんなことならば変な意地や理屈なんて捨てて、再会して早々に言ってしまえばよかった。水分が好きだと。
「そうです、ね、すみません……」
恥ずかしそうに答えて髪を下ろす#苗字#にまたイライラが募る。髪に隠れたそれを睨みつけて机へと向き直った。
「一応教職に就くものとしては見過ごせん、生徒に示しがつかんだろ。……気をつけろよ」
そう言えば微妙な顔をして頷く水分。
山積みの報告書を崩しながらそっとうなじに手を触れて憂いを帯びた表情を浮かべる水分に胸が痛めつけられる。
そんなことする余裕もないくらい仕事漬けにしてやる。うつつを抜かす暇などないくらいに。
その夜もまた、夢に水分が現れた。ただ、いつもとは違って他の男に組み敷かれるその光景をただ見つめるだけの、苦しい夢。
せめて夢の中でくらいは俺のものになってくれ。