第7章 そこに或るメランコリー
なんて思って数日で本当にこんなことになっているなんて。
一週間の職場体験へと教え子たちを送り出し、普段の業務はあるもののほんの少しだけ仕事量の少ない今週。久々に定時で上がった今日、同じく定時で帰ろうとする相澤先生に声をかけたら意外にも明るい返事が返ってきて。
いっそのことセフレのような関係に堕ちてしまおうと思ったけれど、結局私にはお酒を飲む勇気なんてものはなくて、普通にご飯を食べようと向かったのは色気もへったくれも無いただの定食屋。
並んでご飯を食べてそのまま帰ろうと思ったものの、やはり一縷の期待を胸になけなしの勇気を振り絞ってあの時の小洒落たバーへ先生を誘った。
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バーのカウンターで程よい距離を保ちながら横に並んでお酒を飲み交わす。
元々口数の少ない先生と、この先を期待する緊張でいつものように話せない私。いざそんな関係になろうと思うと変に力が入るらしい。
最初こそ職場体験中の生徒の話題を肴に飲み進めたが、次第に互いの口から出る言葉が減って。それでも、酒を煽るその手は互いに止まらなかった。
ふと隣の気配が動くのが分かって隣を見やる。
「水分……」
私より遥かに飲んだはずなのに外見には一切変わりない先生が熱を帯びた目で私を見ていて。言葉がなくてもわかるその誘いに簡単に乗るのはなんだか悔しかった。
「そろそろ帰りましょうか?」
些細な抵抗心だった。曖昧な誘いには乗りたくない。せめてストレートに誘ってくれたら、そうしたら少しは浮かばれる気がした。
バーを出てタクシーを捕まえるために少しだけ大きい通りへ向かおうと足を出した時だった、先生の手が私の手首を掴んで。
「…………お前を、抱きたい」
血が沸き立つような、そんな感覚だった。求められたのは体だけなのに、それでもそのストレートな誘い文句に心が震えた。頷くことで肯定を示して。家でいいか、はい、それだけ。たったそれだけ交わして流しのタクシーを捕まえて二人で乗り込む。
無言の車内で、後悔とも期待とも絶望とも希望とも言える、そんな感情が私の中で渦巻いていた。
あの殺風景で無機質だけれど私の好きな先生が詰まった部屋で、偽りの愛を育もうじゃないか。
愛などそこに存在しなくとも。