第7章 そこに或るメランコリー
受け取り損ねて落ちてしまったコントローラを拾いながら、なんで、どうして、そんな言葉ばかりが脳内を巡る。違う、そうじゃない、上手く弁明しなければならないのに。無言は肯定だと受け取られかねない、とにかくそれだけは勘弁して欲しくて無理のない否定の言葉を掛けようと口を開いた時に上鳴の電話が鳴った。
「わり、出動要請だ行ってくるわ」
「まじか、ラブホから出動するヒーローとか笑うわ」
口では笑うとか言っておきながら顔も心も一切笑ってなどいないのは自分でもわかっている。心を占めるのは、よかった、助かった、そんな安堵。この場が強制的に終わらされたことによって先程の上鳴の問いに答える必要がなくなったことに対する安堵だった。
頑張ってねチャージズマ、そう声を掛けて上鳴を見送って私もすぐにホテルを後にする。上鳴には可哀想なことをしてしまったし、ホテル代くらいは払おうと精算機を見れば会計額には0円の文字。
え、嘘、上鳴さん精算してくれてるじゃないですか、イケメン。
ホテルを出ていくらも経たないうちにスマホが震えた。
“今度詳しく”
上鳴から短く、それだけメッセージが送られてきていて。
応援要請で打ち切られたその話題を終わらせるつもりは無いらしいし、何故か知らないが私と先生が関係を持ったということに確信を持っているらしい。仕方がないなと諦めて、端的に“わかったよ”とだけ返信しておいた。