第36章 その狡猾さすら愛おしい
外でできる話ではないと水分が神妙に言うから、水分の家に俺が上がるよりは俺の家に水分をあげた方がいいか、と家に呼んだ。なにもするつもりはないけど、あまりにも無防備すぎやしないか。まあ、俺をなんとも思っていないからこその行動だな、なんて思えば胸がつきりと痛んだ。
水分の話を要約するに俺と会ったあの日、正式にお付き合いをするとなったと思いきや翌日に破局。そこからはしばらく何も無かったのに先日、突然相澤先生が嫌がる水分を組み敷いた、ということらしい。なるほど外でできる話じゃない。
「……最低だな」
涙ながらに話す水分があまりにも痛々しくて、口から自然に溢れてしまった。その言葉を聞いた水分は「本当にね」、そう言って悲しげに笑った。そして「それでもやっぱり嫌いにはなれないんだよね」なんて切なげに呟くのだから、たまらずその頬を伝う涙を拭って抱き寄せた。
最低だ、などと言っては見るが俺は相澤先生が水分のことを想っていることを知っている。ただそれは俺の口から言うことではないから、言わないだけであって。俺だって最低なんだよ、水分。友達だとか言っておいて結局は自分にその気持ちが向けばいいと思っている。どうすれば水分を振り向かせられるのか、手に入れられるのか、そんなことは不可能だって水分を見ていたらわかるのに、どうにか足掻いている。
きっと俺が、2人は想い合っているよとただ一言告げてしまえばうまく収まるのだ。たとえどれだけの時間がかかろうとも、2人は確実に想い合っているのだから。少なくとも、今のように水分が苦しむこともないのに。
苦しむ水分は見たくないのに、けれど、もがいて足掻いて手に入れようとする俺は、最低だろ。
今日だって。
そうだ、今日だって───