第34章 癒えぬ心を齧る傷
けれどそれはきっと私が先生を嫌いになるはずがないという思いが先生の中にあったからで、それを覆された憤りがあの行動に繋がったのだと思う。もしあそこで「どんなに酷いことをされようとも嫌いになれない」と今の私が抱えている矛盾しているとも思えるこの気持ちを言っていたら、状況は違ったのだろうか。だがそれは何度考えても都合のいい女に成り下がる未来しか見えなくて。あの時なんと答えるのが正解だったのかなんて分かるはずもないまま。
ただ分かっているのは、あんなに酷いことをされたのに、辛くて、苦しくて、怖かったのに、私はまだ先生のことを嫌いになどなれないということだけだった。8年という期間の想いは厄介だなあ、なんて一人自嘲して。いっそのこと、嫌いになれたらどんなに幸せだろうか。
それなのに、視界の端に手入れされていない伸ばしっぱなしの黒髪を視認するだけで心が揺れるのは。
ああ、どうしてこんなにも、あなたが愛しい。こんなにも苦しく痛む心など、殺してくれ。