第32章 燻る残り火をどうか消して
「──?…───!……先生!」
そんなことを考えていたら水分の話を一切聞いていなかった。少しだけ怒った様子でこちらを見る水分に「悪い」とだけ言えばもう一度要件を話してはくれたが。それでもやはりどこか上の空になってしまう。あぁ、こんな機械的な声じゃなくて心を揺さぶられるような声が、腰に響く艶やかなあの声をまた聞きたいのに。その声を聞いているのは今やきっと上鳴なのだろう。
「先生?具合でも悪いんですか…?」
心配するように俺を覗き込む水分のその唇に瞳が奪われて。ダメだ、いくら職員室に2人だからといって、これは許されることじゃない。
「相澤せん、」
許されることじゃ、ない。
──ッパン!
久しぶりに触れた唇は震えていて、2人きりの職員室に乾いた音が響いた。
「先生、最低です」
「……そう、だな」
涙を流す水分が酷く煽情的に見えて。俺は本当に最低だな。ただそう思いながら仮眠室へと水分を引っ張っていった。
最低だと言うのなら、いっそのこと底辺まで落ちて、堕ちてやる。